第31章 原初の欲望

二人は傷口の手当てを済ませ、少しだけ息を整えてから、また歩き出した。

落ちた場所はあまりにも荒れ果てていて、戻る道などもう見当たらない。

灰原仁司は方角だけを頼りに、どこか――とにかく人のいるはずのほうへ進むしかなかった。

何時間歩いたのかも分からない。空はじわじわと暗さを増し、やがて細い雨が降り出した。

灰原の背中を追いながら、杉浦杏奈ははっきり感じていた。彼の体力は、もう限界に近い。

崖から落ちたあと、彼女を水の中から引きずり上げた。それだけでも相当だ。さらに休みなく早足で歩き続けているのだ。灰原仁司といえど、もつはずがない。

杏奈も同じだった。息は苦しく、足は鉛みたいに重い...

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